月下、非常識ヲ試ミタ童蒙ハ顎止ムコトナク自我ヲ現世ヲ理ヲ思惟ス。
弱い者はいつだって強い者の好きにされるのがこの世のルールだ。
どんな物語?
問題児の夢は早く大人になること。大人になって自分の好きに生きること。今の今それができない12才の彼は、ある日ぼろぼろのほったて小屋でとんでもない話を耳にする。
(奴隷をやめるなら、このチャンスに賭けるしかない)
そう考えた問題児は親友が持ちかけてきたそのとんでも話=人生を丸っきり変えちまう計画に乗っかることを決め、次の晩にそいつを決行する──1981年秋の逐電譚。
幼い頃からの試練を武器に変え、心と体で覚えた暴力と嘘で大人顔負けの手並みを決めていく童蒙、沢村怜二。彼の思いは果たしてかたちを成すのか、成さないのか。
未成熟ゆえの焦燥、衝動、好奇、可能性。そして異種生物ともいえる大人たちとの交じらい。昭和の問題児は顎を休めることなく非常識を試み、月の下で己と道理を擦りあわせる。
ものはためし。なんだって一度はそうしてみなきゃわからない。
『昭和童蒙逐電譚 月の背中 A面』本編より抜粋して掲載。作風、文体、物語の質感などをこちらでご確認頂けます。